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Lost. - 日記

プロフィールへ - 全日記 - 2013年9月の日記 -

本文

祷月 常磐 @tokiwa


「……、ジゼル」

 その名前を呼んでも、応えてくれることはない。もう、ひょっとしたら自分の能力は消えてしまったのかもしれない。家を潰して、目的は果たした。だから、俺にはもう能力を使用することが出来なくなってしまったのかもしれない。使用する意味が、能力を使用する役目が無くなったのならば、それは等しく無に帰ってしまったのかもしれない。それは、随分昔から考えていたことで、随分昔から、俺が「能力を失う」ことを覚悟していたことだ。
 俺にはもう、この先「ジゼル」を遣うことは出来なくなってしまったのかもしれない。

 ――俺は、もう死という自由を待つだけのただの『人間』になってしまったということか。

 俺が望むのは、もう「風になる」ということだけになった。風になることが出来るのならば、この世界から、消えて自由になることが出来るのならば。俺は、なんだって。
 だから、俺は目の前に居る黄金色の男を見ては、嘲笑を交えたそれを送るのだ。雨は、空からぽつりぽつりと降り始める。

「――ほら。殺しにきたんだろ? なら早く、殺せばいいだろ。お前にとって好都合なことに、俺は丸腰だ。『ジゼル』も居なければ、ラングレンも使えねえ。つまり俺は、能力者でもなんでもなく、そこらへんに居るただの通行人Aになったも同じってわけだ。……お前が俺を「風」にしてくれるなら、喜んで俺はお前に、殺されるよ」

 三年振りの男の姿は、しかし相も変わらず姿様相は昔のままで。流石は「妖」といったところかと場にそぐわぬ感嘆と感心と、それから納得の意を唱える笑みを小さく浮かべるのだ。しかし、次に吐き気がこみあげてきて、ゲホッ、とその場で吐き出したのは血液であった。どうやら、内臓が一部やられたらしい。というのも、俺の身体は既に満身創痍で、立っているのもやっと。これは致命傷ともなりうる、そんな傷だろうかとひとり手繰りながらも雨は次第に、静かにも確実に激しくなる。濡れる全身に、しかし俺はそんなことはもう、どうでも良いとさえ思っている。ただ目の前に居る男を凝視し、そうして。

「なんや、……少し見ぃひんうちに随分とクソ大人しいクソ餓鬼になったじゃねえか。つまらんな。こんなんなら、ケイと向こうで留守番してたほうがマシだったな」

 男の口調は、方言なそれから標準語へと移り変わる。しかしその表情には、学園に居た時のような笑みも何一つなかった。無だった。冷めたそれは、ついに俺を嘲笑う。侮蔑のような、憐憫のような。「相棒が居ないのは、残念だったな」と軽口を男に叩くと、黙れクソ餓鬼がと一蹴されてしまう。どうやらご機嫌斜めな雷獣らしい。だから、こんなに遠くではあるものの雷がごろごろ、地鳴りのように響いているわけか。
 俺は、今日此処で無残に殺されるのだろう。
 能力を失った今、俺は今この眼の前の怪物と対抗する術は持っていない。逃げるにも、無駄な足掻きになってしまう。ならばいっそ俺は、此処で。

「なら、さっさと終わらそうか。……、苦しめ。感電死させてやる」

 男が掲げた左手に集まるのは、雷の球体。黄金色の美しくも残虐なそれを、俺に向けてきて。そうして俺は、ゆっくりと。目蓋を閉じる。




 嗚呼、そういえばあいつに言われたっけな。命を簡単に投げ出したら、殴られる んだ  っけ



 キィン、と。
 それは、突然。耳障りと言っていいほどの、鋭利な音。ハッとして目蓋を開いてみると、丁度男が放った雷を圧縮したような球体が右頬擦れ擦れを通過したところを視界に映す。
 何が、起こったのか。僅かに息も乱れる。緊張と、説明のつかない唐突の軌道修正。漸く男のほうを見ても、彼も同じように訝しむような表情を浮かべていた。なんだというのか、と。そうして響き渡る、懐かしき声色。

『氷奉くん! はやく! はやく逃げないと!』
「じぜ、る? なんで、お前! 消えたんじゃ、だって、能力、……は、うッ、」

 心地よく吹く風。そうして、察したのだ。自身の能力が何故か戻っていることに。
 言葉を紡ぐ途中に、血を交えた咳き込みをしながらも、しかしこの俺に能力が戻ったということは、なにかあるんじゃないかと。

「――ジゼルッ、俺を飛ばせッ!!」

 此処であいつを振りきるのは簡単ではない。ならば、戻った能力に頼るしかないのだ。雨を巻き込んだまるで竜巻の如くその風は、ゆっくりと、しかし確実に呉祇を包み込む。それに気づいた男は、小さく舌打ちをしてから再度、同じ攻撃をしてこようとするのが目に映った。いや、それは先ほどよりももっと強力で破壊力のあるものであると本能がそう告げている。その雷の塊は、竜巻の中心部である俺の元へと向かって――。


「……――――チッ、」


 その攻撃が到達する間一髪、その場からその竜巻ごと霧散する。もう誰もいない。残るのは、血の痕。そして、大きく広く深く陥没した地面のみ。
 殺し損ねた小鳥遊呉祇もとい、色部氷奉に恨みがましい表情と舌打ちを、志礫屑雷はもう既に誰も居なくなったその空間へと向けたのだった。

 雨は、なおも激しく地面をたたきつける。



【 Lost. 】

2013/09/15 02:12 - No.0

2013年9月の日記

コメント

祷月 常盤 @tokiwa

なんとなく、書いてみたかったものです。
まきさんから、螢くんのお名前を少しお借りいたしましたっ!
何か有りましたらお知らせ頂ければと思っておりますorz

取りあえず外で呉祇を見つけた屑雷がめっためたに呉祇を痛めつけてでも呉祇は家を潰した後に能力失っててまじ満身創痍でーっていうのを書きたかっただけ。
眠い中書いたので阿呆みたいに文章まとまってないけどいいや、うん←

……ねよう。

2013/09/15 02:17 - No.1

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